幅広い世代が思いを表現/在日コリアン女性美術展「パラムピッ」

幅広い世代が思いを表現/在日コリアン女性美術展「パラムピッ」

《朝鮮新報》2023年04月04日

在日コリアン女性美術展「パラムピッ(바람빛)」(以下、「パラムピッ」)が3月30日から4月3日まで、東京の品川区民ギャラリーで開催され、通算420人の同胞、日本市民らが来場した。

在日コリアン女性美術展「パラムピッ」が約4年ぶりに開催された

「パラムピッ」は関東近郊に住む在日同胞女性のグループ美術展だ。その名前には、仕事、家事、育児と忙しい毎日を過ごす女性たちの生活に光(ピッ)を差し込み、風(パラム)を吹き込もうという意味が込められている。

1992年に都内で「パラムピッ」発足会が開かれた後、2年間の準備期間を経て、94年2月、第1回目の展示会を開催して以降、約2年に1回のペースで展示会を催してきた。2007年からは、事務局メンバーたちが結婚や出産と育児、仕事に追われる多忙な日々を過ごしながら、約10年間活動を停止していた。しかし、メンバーたちの復活への思いは強く、2017年に11年ぶりに第7回目の展示会を開催。それから2年ごとに開催しようと決め、19年に開催されたが、それ以降はコロナ禍で中止を余儀なくされた。

約4年ぶり、9回目となった展示会には、20~70代の26人が参加し、前回の約2倍となる64点の油画、水彩画、アクリル画、デジタルイラスト、陶芸、写真など多様なジャンルの作品が出品された。また、第1回の展示会の頃は子どもだった「パラムピッ」メンバーの娘たちも作品を出品した。

作品には、日本軍性奴隷制の被害者として南朝鮮で自身の被害を告発し、この世を去るまで朝鮮学校の生徒たちへの支援に全力を注いだ金福童さんを思い描き、蝶やモクレンを素材とした作品たちが多く出品された。

また、展示期間の4月2日には、在日朝鮮人美術史研究者の白凛さん(一般社団法人在日コリアン美術作品保存協会代表)によるギャラリートークが行われた。

ジェンダー、フェミニズムを研究する梁聡子さんは会場を見て回りながら、「普段から仕事でデザインを依頼している美術家たちが出品すると聞き、展示会を楽しみにしていた。世界的にフェミニズムをアートで表現するアーティストが多い中、幅広い世代の在日コリアン女性たちが自身の思いを形にしていることに感動した。技術的にも素晴らしい美術展だった」と感想を述べた。

「パラムピッ」事務局長の金聖蘭さん(東京第5初中教員)は「『パラムピッ』のメンバーからはいつもエネルギーをもらっている。女性同士でこうして何かを成し遂げることができるのが誇らしいし、それが実現できたのは一緒に生活する家族の協力と献身的な支えがあったからこそ。創作の過程は決して女性だけで成り立つものではなかった」と振り返った。

今後「パラムピッ」は2年に1回開催される予定だ。

約4年ぶりの開催となった在日コリアン女性美術展「パラムピッ」(3月30日~4月3日、東京・品川区民ギャラリー)は、前回(2019年)比で出品者数が1.5倍、出品数は約2倍と、ボリュームが増した展示会となった。20~70代までの美術家たちに、作品に込めた思いなどを聞いた。

作品への思いを共有する出品者たち

今回の展示会の特徴の一つは20代の若い世代が多く出品したことだ。

ペン画2作品を出品した朴慶奈さん(22)は、東京朝高美術部に所属していた頃に個展を開催し、その後、朝大教育学部美術科で学んだが、コロナ禍の影響で、卒業時の作品発表する機会がないまま卒業を迎えた。卒業後も展示会を開けない日々が続いた。そのもどかしさを解消してくれたのが「パラムピッ」だった。

朴さんは、ペン画「見ていない」で、「世の中に見えていないもの、人々が見ようとしないもの」をテーマに、日本のメディアでは報道されない世界情勢や社会問題などを細かく描いた。

この作品を創作する前まではこうした問題に関心を持っていなかったという朴さん。特に知らなくても自身の生活に大きな影響を及ぼさないと思っていたからだ。しかし、コロナ禍の偏った報道で社会問題に目を向けないメディアに疑問を感じ、作品を通じて問題提起しようと思った。

また、ジェンダーに視線を向けた作品「身に纏う」は、ダイバーシティ社会を意識し、マイノリティーの権利を保ち、性差や価値観に左右されない多様性を問う作品に仕上げた。

鄭和瑛さんが出品したアクリル画「蝶の美しさ」

学友書房に勤める鄭和瑛さん(27)は、以前から作品を作りたいと常々感じていたが、今回の展示会を通じて美大卒業以来、久しぶりに作品を作ることができたという。

鄭さんが出品したアクリル画「蝶の美しさ」は、4つの丸型のキャンバスにサナギが蝶になる過程を描いた。サナギは羽ばたくのに必要な羽や脚を作るために、いらない細胞を壊し、使える細胞は再利用する。蝶は一般的に鮮やかな羽が美しい姿としてイメージされるが、羽ばたく前の力強く神秘的な「再生の力」がいっそう美しいと思ったという鄭さん。この過程は、人間が悩んだり傷ついたりしたときにそれを乗り越える過程とも捉えられると話す。また、日本軍性奴隷制被害者のハルモニを象徴する紫色を使い、かのじょたちに思いを重ねながら、サバイバーたちが力強く闘う姿、再生への力を描いた。

自身の作品「記憶の記録」について語る金錦実さん

生まれたばかりの子どもを抱きながら会場を訪れた出品者たちもいた。一瞬も目を離せない幼児を他のメンバーたちが見てくれるのも、「パラムピッ」ならではの特長だ。

東京都在住の金錦実さん(32)は、鉛筆画「記憶の記録」、イラスト「今日大切にしたいこと」を出品した。

特に、2人のわが子を描いた鉛筆画「記憶の記録」には、日々、生活に追われる中で儚く過ぎ去ってしまう子どもたちの姿を形にして留めたいという金さんの思いが詰まっている。

金さんは、「出産を機に物事に対して思うことが変わり、まるで色が褪せていくかのように時間がどんどん過ぎ去り記憶にだけ残る」と話す。創作においては、この作品を見る度に当時の想いを思い返せるように、子どもたちのふっくらとした頬の曲線、柔らかい毛並み、そのフォルムを愛でるように線で追ったという。

広島初中高美術部を指導し、現在、千葉県在住の宋明樺さん(32)は、金錦実さんと朝大の教育学部美術科の同期だ。2人とも育児真っただ中の出品となった。

今の時代に生きる在日朝鮮人女性としての視点を持って表現を続ける宋さんは、過去作2点と新作を出品した。同胞社会では、度々在日1世の記録が取り上げられるが、時代が過ぎ去る中で宋さんは在日2世に焦点を置いた記録を残すことに力を注いだ。

在日2世の親戚に聞き取り調査を行い、1970年代に実際に暮らしていたプレハブの家の間取り図を10分の1の大きさで再現した「間取り図―プレハブ」は、在日1世とはまた違う在日2世の記憶の中にあるもの、かれ・かのじょらの生き様を立体的に表現した。

野菜、果物、花を素材にした絵を多数出品した黄君子さん(75)は、「現役を退いた66歳から10年、今は時間がたっぷりある。しかし、時間の有無ではなく40、50代の忙しかった時期がとても充実して筆が乗っていた。今は日々の生活の身近なものをモチーフに色鉛筆画を描いている」と語る。

今回の展示会には出品しない予定だったが、事務局メンバーの勧めで出品を決めた黄さん。「躊躇して出品しなかったら自身にとっての『パラムピッ』は終わっていた。若い世代の美術家たちと交流できたこともうれしい」と喜ぶ。そして、老若男女で活気あふれる場内の雰囲気に「生きている感じがした」と笑みを浮かべた。

金蓉子さんの作品「駆け抜けた歳月」

「パラムピッ」発足当時から事務局を務める金蓉子さん(59)は、今年還暦を迎えるにあたり、自転車で駆け抜けた細長い道で一度立ち止まり、夕日を浴びる自身の姿を描いた。

金さんは以前、子育て真っ盛りの時期に前カゴに息子を、後ろの座席に娘を乗せて自転車に乗る自身の姿を描き出した。今回は、その延長線として、子どもたちが大人になり自立し、空っぽになったカゴが付いた自転車に1人で乗り、長い道のりを駆け抜けてきた自身の姿を描いた。

金さんは、久しぶりの「パラムピッ」開催に「仕事が忙しく創作できなかった4年間の空白が重くのしかかった。コツコツと描き続けなければならないと痛感した」としながら、「出品者たちの情熱を感じる展示会だった。特に若い世代たちが、立体作品など新たな形で展示してくれて新しい風を感じた。こうした展示会も家族の応援があってこそ成立する。私のパートナーも創作の時間を作れるように手伝ってくれた。感謝しかない」と語った。

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