ウリマルを考える⑫ウリマル教育の現況と課題

ウリマルを考える⑫ウリマル教育の現況と課題/朴宰秀

《朝鮮新報》2023年06月08日

最終回の今回は、民族教育におけるウリマル教育の現況と課題を中心に考えてみることにします。

ウリマル教育の背景

民族教育におけるウリマル教育の現況について考えるとき、その背景を考慮する必要があります。

一般的に教育は、それが置かれた客観的条件がその教育の成果を左右する大きな要因の一つです。ウリマル教育もやはり、その教育が行われる社会的、政治的、文化的背景が教育の成果を左右する重要な要因の一つになります。この点を考えたとき、民族教育におけるウリマル教育の社会的背景に大きな特徴があることを見逃してはならないでしょう。

民族教育は、民族性を維持しようとする在日同胞の熱意と努力によって始まり守られてきましたが、その背景には解放直後から現在に至る約80年間、常に日本当局の差別と抑圧、同化政策があったため、子どもたちに対するウリマル教育が非常に厳しい状況の中で行われてきたという事実があります。

また、教育で扱われている言語にも特徴があります。民族教育が教える朝鮮語は、在日朝鮮人学生にとって母国語ですが母語(幼児期に最初に覚えた言語)ではありません。かれらの朝鮮語習得過程は第二言語習得過程となります。

在日同胞は、解放後から今日まで祖国の温かい配慮のもと、厳しい状況にもめげずウリマル教育を行うことで、4~5世までがウリマルを使用するという奇跡を生み続けています。

このようなウリマル教育に関わる背景を直視しながら、民族学校で「朝鮮語力」を育んでいくうえでの問題点と課題について考えてみます。

ウリマル教育のいくつかの問題点

紙面の関係上、ここでは三つの問題点に焦点を当てて考えてみたいと思います。

まずは、日本語の影響を受けた不正確なことば、誤りの定着が見られることです。

語彙や吐(助詞、語尾など)の使用における誤用がすでに一部文法化される段階にまで至っています。

また、学校内だけで通じる「学校内方言」が作られ、正確性の欠けたことばで済ませる傾向があります。これらは、ことばの縮約形や日本語との混用に集中的に現れています。

次は教員の現状と資質です。

朝鮮学校でウリマルを習得する営みを続けて来られたのは、自然言語習得能力のある子どもたちに、ウリマルの習得に欠かすことのできない決定的な要素となる「ウリマルの言語環境」を絶え間なく提供してきたからです。

ウリマルによる言語環境の提供は、主に教員たちの強い責任感と意志によって保たれ維持されています。また、教員の指導と子どもたちの積極的なウリマルの使用が学校でのウリマルの言語環境を作り上げています。この言語環境の良し悪しは教員の資質と大きく関わっています。故に教員の育成と資質の問題は、民族教育の運命を左右する最も重要な問題だと言えます。

ウリマル教育の観点から見て最も大きな問題点は、教員全員が母語話者ではなくそのほとんどが民族教育の現場でウリマルを習得した2世・3世であるということです。民族教育におけるウリマル教育の最大の問題点が教員自身の資質の問題であると言われる所以です。

次は、国語・ウリマル教育についての教員や総聯組織で働く専従活動家の理解不足です。

国語教育というとき、広義では学校での国語教育、同胞社会でのウリマル教育、同胞家庭でのウリマル教育を意味します。

また、学校での国語教育は、国語科教育、他教科のウリマル教育、学内のウリマル運動を意味します。

しかし、一部では国語科教育だけが国語教育と考え、ウリマルで授業する他教科を国語教育の一環だと考えない教員がいます。

また、総聯組織で働く専従活動家たちの中にも、ウリマル運動はウリマルを知らない同胞を対象にした運動で、専従活動家は対象外だと考える人がいます。このことが金正恩総書記の5.28書簡貫徹を妨げるという自覚がないため、多くの人が事務所や同胞社会で日本語を使っています。

今日、専従活動家や同胞の日本語使用により同胞社会や家庭でウリマルの言語環境がなくなりつつあり、ウリマルと民族性は危機に瀕しています。

何よりも教員や専従活動家たちが日常生活でウリマルを使い、同胞社会にウリマルの言語環境を取り戻すことが強く求められています。

ウリマル教育の課題

ウリマル教育で重要なことは、祖国と民族の統一を念頭に同胞子弟がウリマルを学ぶ環境を整えることです。

まず、日本語の影響を受けた不正確なことば、誤りを正すことです。

そのためには、変化する在日同胞社会の実情と要求に合わせたウリマルの習得に効果的な教科書や参考書の開発がすべての教科で求められます。

また、民族教育の核である「国語科」と他教科のウリマル教育の内容と方法を研究し、ウリマルの習得技術の向上を図らなければなりません。

現在、新しい教科書の編纂が進められる中、デジタル教科書が導入され、待望の朝鮮語辞典(電子版)も出版されました。

次に、教育者や専従活動家たちが「国語・ウリマル教育」に対する誤った観点を是正し、同胞社会に正しいウリマルを学び楽しく使う「愛国の時間・場」を再構築することです。

人材育成の要は教員の資質だと言えます。教員の資質は学生の言語習得に多大な影響を与えます。故に教員の育成と資質の問題は最重要課題だと言えます。

教員全員が母語話者ではありませんが、これが教員の資質を決める決定的要因とはなりません。重要なことは、母語話者でなくても言語教育や言語環境作りに対し、すべての教員がウリマル教育の担当者としての自覚と使命感を持って、それぞれの分野でウリマルによる徹底した専門知識とウリマル能力の向上を図ることです。難しい課題ですが不可能だとは思いません。

この問題解決の鍵は、教員と専従活動家を養成する朝鮮大学校の教育の質の向上と役割にあると思います。

民族教育が実施されて以来今日まで、ウリマルの習得と使用のための環境作りの一環として、学内外でウリマル運動が展開されてきました。

このようなウリマルの学習と常用を促す環境作りは、学生はもとより在日同胞のウリマルの習得に大きな役割を果たしてきました。この運動を学校はもとより大きく変化する同胞社会で、ウリマル教育の一環としてどのように再構築し展開していくべきかを研究し、実践していくことが重要な課題となります。

まずは、総聯が現在繰り広げている「ウリマルと文字を学び楽しく使う運動2023(略称:ウリマル運動2023)」を成功裏に進めることが重要だと思います。

「ウリマル運動2023」の成果は、運動の推進者である総聯組織と専従活動家、教員たちの使命感と役割にかかっています。

日本におけるウリマル教育・運動の展開は、在日同胞を民族性豊かな朝鮮民族の一員に育て上げる事業です。

ウリマル教育・運動は、総聯組織が存在し民族教育が続く限り、半永久的に展開しなければならない総聯の中心課題です。(おわり)

【プロフィール】1970年、朝鮮大学校文学部卒業。同校で48年間勤務。文学部及び文学歴史学部学部長、朝鮮語研究所所長を務める。東京外国語大学、関東学院大学、京都造形芸術大学で非常勤講師を歴任。現ハングル能力検定協会相談役。朝鮮民主主義人民共和国教授、言語学博士。

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