タンポポのようにⅠ,Ⅱ-ある在日朝鮮人音楽家の呟き-/金学権

タンポポのようにI,Ⅱ-ある在日朝鮮人音楽家の呟き-

金学権

20223年9月9日 初版発行

著書購入の問合せ:TEL080-3247-6322(金学権)

価格3,000円(Ⅰ・Ⅱセット、送料込)

踏まれても 踏まれても タンポポのように

小さくても 小さくても その根深く

冷たい風にも 冷たい雨にも 春を待つ

おまえは おまえは わが心

いつか春の陽の下 笑い声とともに

こんなことも あんなことも あったと

昔話 語ろう

-金学権-

「心に美しく力強い花が咲く/金学権先生の著書を読んで」金殷真

《朝鮮新報》2023年10月28日

畏れ多くも私のような若輩者に、在日本朝鮮文学芸術家同盟(以下、文芸同)中央音楽部顧問、作曲家である金学権先生が貴重な著書を贈ってくださった。

タイトルは『タンポポのようにⅠ・Ⅱ―ある在日朝鮮人音楽家の呟きー』(金学権著、Ⅰ=296ページ、Ⅱ=303ページ、A6版)。

著書には、音楽や作曲、在日同胞社会や祖国の話題のみならず、日常生活にいたるまで、様々な出来事と思いが、エッセイとして綴られている。

著書を手にしたその日からすぐに読み始め、あっという間に読み上げた。

雄弁な音楽作品とは裏腹に、普段はいつもにこやかであまり多くを語られない先生の、内に秘められた大いなる信念や情熱、豊かな喜怒哀楽に触れた。また、あたかも先生が目の前でご自身の物語を語ってくださっているような飾らない文体に、心温まる時間を過ごした。

「最も個人的なことは最もクリエイティブなこと」

本書を読みはじめてすぐに、映画「パラサイト」でのアカデミー賞受賞式で、ポン・ジュノ監督が引用したマーティン・スコセッシの言葉が思い浮かんだ。

先生の綴られるご自身のエピソードと想いは、まさに個人的でありながらクリエイティブ。出会いや出来事から、本当に多くのことを感じ、考え、学びながら、ご自身の人生や人格形成、そして作品に活かしていることがわかる。

著者である作曲家の金学権さん(2005年撮影)

音楽を志した私にとって、先生はまさに憧れの人である。

朝鮮大学校の学生時代、師範教育学部・音楽科の後輩にご子息がいらしたのもあり、感激の中でお会いしたことを覚えている。

その後、私は音楽教員として神奈川朝鮮中高級学校に赴任し、すぐに文芸同の活動にも参加した。当時、文芸同中央音楽部長であられた先生との距離はさらに近くなり、そのお人柄と貴重な指導に少なからず触れる幸運を得た。

ある日、文芸同の活動でご一緒させていただき、駅で先生を見送った時のこと。人混みに紛れてゆく小さな背中を見つめながら、先生の素朴で謙虚な、しかしあまりにも偉大な背中を、これからもずっと追いかけようと誓ったことを、はっきりと覚えている。そしてその想いは消えず、先生の志を継ぐ者として、今日も民族教育と文芸同、朝鮮音楽の発展のため、微力を尽くしている。

本のタイトルと本書冒頭の自作の詩はもちろん、ご自身の交響曲のタイトルにも、そしてエッセイの中に何度も現れる花、タンポポ。ご自身の人生や在日朝鮮人の生き様を重ねられているその花のイメージに、僭越ながらもうひとつ、意味をつけ加えさせていただきたい。

素朴で、決して目立たず、時には傷つけられることもある小さな花。しかし、決してめげず、大空へと生命の種を飛ばし続けるタンポポ。その花の生き様のように、先生もまた、民族と同胞のための音楽という種を飛ばし続けることを、決してやめない。

同胞たちや子どもたちはもちろんだが、音楽家の観点から見ても、先生の音楽作品に触れず、その影響を受けずに育った朝鮮学校出身の音楽家はいない。すべての在日朝鮮人音楽家に、種を届け、花を咲かせる師と言える。

まさにタンポポのような方ではないだろうか。

音楽家でなくとも、在日朝鮮人でなくとも、たくさんの方々の手元に、タンポポの種のように本書が届き、先生の語られる人生と音楽の話に触れてほしい。読んだ方々の心に、必ず美しく、力強い花を咲かせるはずである。

そして、一人の音楽家としては、本書を入り口にたくさんの方々が、人々を魅了して止まない先生の素晴らしい音楽作品にも、ぜひもっと触れていただきたいと願う。

(神奈川中高教員)

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