朝鮮の小説と音楽を分析/文学芸術からみるDPRK、オン・オフラインで開催

朝鮮の小説と音楽を分析/文学芸術からみるDPRK、オン・オフラインで開催

《朝鮮新報》2023.02.27

2月24日、「朝大文学Cafe-文学芸術からみるDPRK」が朝鮮大学校第1研究棟を本会場とし、オン・オフラインで行われた。今回のイベントは、朝鮮大学校朝鮮問題研究センター朝鮮文化研究室と、日本の研究者らによる科研費基盤(B)「文化としての社会主義:北東アジアとDPRK」の共催。両団体はこれまでも、研究会や連続講座などを開催し、朝鮮文化に関する研究の深化や理解の促進に取り組んできた。本イベントでは朝・日の研究者たちがそれぞれ報告した。

中編小説「友」を深掘り

まずはじめに、朝大文学歴史学部の金真美助教と外国語学部の李玲実助教が、朝鮮の代表的な作家であるペク・ナムリョン氏の中編小説「友」(벗)の書評を行った。

4・15文学創作団に長年所属しているペク・ナムリョン氏は、金日成主席と金正日総書記の業績を描いた小説のほか、労働者の経験など生活的な内容を扱った作品を手がけてきた。中でも1988年に発表された「友」は、2011年9月にフランス、18年4月に南朝鮮、20年4月に米国で出版され、米国の図書館雑誌「ライブラリー・ジャーナル」が選ぶ「2020年最高の世界文学」10作品中の一つにも選ばれるなど、世界的に高い評価を受けてきた。同小説では、芸術団の女性歌手であるチェ・スニが、機械工場の労働者であるリ・ソクチュンとの離婚訴訟を提起したことで生じる当事者らの苦悩、人民裁判所で離婚調停を担当する裁判官チョン・ジヌが訴訟を通じて自らの結婚生活を顧みる過程が描かれている。

中編小説「友」(벗)について書評を行った朝大の金真美助教と李玲実助教(右)

書評を行った金真美助教は、同小説の国内外の評価や作家の経歴について触れ、 党と革命、祖国と人民に忠実な「隠れた英雄」の精神世界が積極的に形象化されるようになるなど、新たな文学的傾向を見せた80年代の特徴について言及。その上で作品世界を掘り下げながら、夫婦に対する周囲の評価には、芸術家が抱く虚栄心と優越感、労働者の保守性という要素が見られると述べた。

金真美助教は、このような差異から生じた夫婦の葛藤には、作品の主なテーマである精神文化面での発展を遂げる社会と、社会進歩に参加する労働者たちのインテリ化という問題が提起されていると指摘した。

また、本作品の重要なポイントは、国家を構成する最小単位である家庭における問題を社会的な次元から捉え直すことで、女性の尊厳を尊重しない社会的因習、勤労性を正しく評価しない管理機関の官僚主義という社会問題を浮かび上がらせている点であると分析。同時に、スニ個人の私的欲望に焦点を当てることで、同小説が新たな女性像を作り上げていく可能性を示したと語った。

朝大文学Cafeはオフ・オンラインで行われた(写真は本会場の朝鮮大学校第1研究棟)

李玲実助教は、小説を通じて考えた朝鮮における家族観・結婚観について報告。夫妻の離婚問題に介入し家庭回復を求める判事の働きかけに着目し、1980年代初頭の朝鮮において「離婚」がどのような問題であったかを朝鮮の文献などに基づいて分析した。

李助教はまず、「結婚」というものは社会の細胞である家庭を形成する出発点であると同時に、「革命的同志愛に基づく一夫一妻の結合を法的に担保」 するものであったとし、結婚では女性に対する政治的経済的権利の保障が前提になると確認。他方で「慎重な社会政治的問題」と捉えられてた「離婚」においては、離婚裁判の準備段階で裁判所が離婚当事者に積極的な政治活動を行い、家庭回復に努めるよう義務付けられていたとした。

李助教は前述の点を踏まえ、小説に登場する2件の離婚問題では、一方で妻の人権の尊重という観点から離婚判決が下され、もう一方で社会側の責任を鑑みて家庭回復が要求されたと指摘。朝鮮の婚姻・家族制度から確認される家庭観・結婚観を、日々の生活を営む人々のミクロな視点から描いたところが、同小説の興味深い点だと語った。

朝鮮音楽の変遷と現在

つづいて、朝鮮の歴史と文化に詳しい摂南大学国際学部国際学科の森類臣特任准教授が「朝鮮音楽の現在―宣伝扇動と音楽『界』 の力学―」と題して報告した。

森類臣特任准教授は、朝鮮音楽の現在について報告した。

森准教授ははじめに、朝鮮音楽(大衆音楽、軽音楽、歌謡など)を理解するには、①音楽的な接近、②歴史的な接近、③政治社会的な機能と文脈、④他の社会主義国との比較、⑤文化・芸術活動における音楽の位置付けと、相対的に自律した領域である「界」という概念の応用という、複数の視点が重要であると指摘。その上で、朝鮮音楽の歴史や傾向性を1940年代から振り返りながら、音楽分野における金正日総書記の指導について語った。

森准教授はまた、金正恩時代に登場した「社会主義文明国」という概念及び体系のオリジナリティーについて強調し、金正恩時代が目指す「社会主義文明強国」は「文化の全方位的な発展を企画している」と、その論理について言及。牡丹峰楽団(後に牡丹峰電子楽団に改編)、青峰楽団、三淵池管弦楽団、国務委員会演奏団などを挙げながら、各楽団の概要や登場背景、演目の特徴や各楽団が果たす役割などを分析した。報告では写真や映像を通じて、各楽団の特徴や音楽シーンの移り変わりなどを分かりやすく説明された。

各報告の後にはオフ・オンラインで質疑応答が行われ、参加者たちの意見交換が活発に行われた。

本イベントはトピックを変えながら、今後も開催される予定だという。

Follow me!