DPRK音楽

朝鮮文化への初歩的な理解を/朝鮮音楽の歴史と特徴ー第1回

朝鮮文化への初歩的な理解を/連続講座が開講

《朝鮮新報》2021.07.28

朝大と日本の研究団体が共催

連続講座「朝鮮民主主義人民共和国の大衆文化をひも解く」が7月24日、開講した。朝鮮大学校朝鮮問題研究センター朝鮮文化研究室と科研費基盤(B)「文化としての社会主義:北東アジアとDPRK」の共催による本講座では、さまざまな分野の講師を招き、朝鮮の大衆文化の実態について理論的側面や実際の経験を基に学んでいく。

理論と実体験を基に

朝鮮文化研究室と科研費基盤(B)「文化としての社会主義:北東アジアとDPRK」では、2017年から共同で研究会を開催するなどして、朝鮮という社会主義国家を周辺のアジア諸国との相互関係の中で捉え、再発見する取り組みを行ってきた。今年度は新型コロナパンデミックにより現地調査が困難な中、朝鮮文化に対する初歩的な理解を深めることに照準を合わせて連続講座を企画した。

第1回のテーマは「朝鮮民主主義人民共和国の音楽 その歴史と特徴」。朝鮮大学校を本会場としオフ・オンライン合わせて75人が参加した。

朝鮮大学校文学歴史学部の金真美助教は「日本においては西洋中心的な観点やプロパガンダとしてのみ社会主義文化を評価する風潮が根強く、社会主義文化を嘲笑したり矮小化して他者の価値観や思想を軽んじる動きが目に付く。そのような中で、朝鮮が長きにわたる植民地支配と分断、帝国主義の体制転換の圧力の中でつくり上げてきた独自の社会主義文化を、音楽を皮切りに検証する」と趣旨を説明した。

講師として、尹伊桑音楽研究所(平壌)副所長であり、前在日本朝鮮文学芸術家同盟中央音楽部長の李喆雨さんが登壇した。

李喆雨さんは前置きとして、日本人の朝鮮音楽に対する限定的なイメージに言及したうえで、「ベートーベン、モーツァルトなどの西洋音楽の研究は立錐の余地もないが、朝鮮音楽なら空き地はたくさんあり、その空き地に立派な家を立てることができる。これを機に朝鮮音楽に関心を持ってくれたらうれしい」と穏やかな語り口で聴衆を引き込んだ。

第1回連続講座のようす(提供=朝鮮文化研究室)

朝鮮音楽の歴史と特徴

講演では、祖国解放後から現在に至る70余年の朝鮮音楽史を8つの時代に区分して考察した。作詞作曲といった楽曲制作や音楽芸術の発展方向などを時代背景に基づいて解説。聴衆とともに時代ごとの代表曲も鑑賞しながら、朝鮮音楽の魅力を共有した。

「金日成将軍の歌」「人民共和国宣布の歌」など新生祖国建設のための歌がつくられた解放直後、朝鮮軍歌の最高傑作とされる「決戦の途へ」をはじめ数々の軍歌とともに「母の歌」といった抒情的な曲も数多く創作された祖国解放戦争期。李さんは「金日成将軍の歌」の作曲を担当した金元均氏との交流や、戦時中に牡丹峰劇場の地下にあった小劇場で毎日公演が行われていたというエピソードも紹介した。

戦後復旧期と社会主義基礎建設期を経て、60〜70年代の文芸復興期へ。李さんはピバダ式5大革命歌劇の誕生とオーケストラ音楽の大衆化がこの時期の特徴だと指摘。続く80年代の特徴については、1986年の普天堡電子楽団誕生に言及し、「特筆すべきは電子楽器を導入したこと。社会主義音楽は生の音楽が基本原則であったから電子楽器が入ることはたいへんな発想の転換だった」と話した。

1990年代の苦難の行軍、先軍政治、音楽政治に言及し、2010年代に入ってはモランボン電子楽団、銀河水管弦楽団、三池淵管弦楽団、青峰楽団などが次々に創られたと指摘した。李さんは注目すべき点として、2016年朝鮮労働党第7回大会を控えて「この世に羨むものはない」に金日成賞と金正日賞が授与され、歌としては初めて二重桂冠作品となったことを強調。今年6月に初めて単独公演を行った国務委員会演奏団が歌う「われらの母」が話題になっていることなど、最新の音楽事情も紹介した。

歴史を振り返ったうえで李さんは朝鮮音楽の特徴について、①建国以来一貫して民族音楽を中心に音楽を継承・発展させてきたこと②音楽創作の中で頌歌の占める比重が多いこと③建国70周年を記念した大マスゲームと芸術公演「輝く祖国」 をはじめ、大規模総合公演が多く行われたこと④朝鮮の音楽レベルが高い水準にあること―の4つをあげた。

最後に李さんは、「わが民族は有史以来、歌舞をこよなく愛し“文”を崇め“芸”を重んじる伝統の上に成り立っている。祖国は分断されているが“アリラン文化圏”としての文化は共通している。われわれ在日コリアンも栄ある“アリラン文化圏”の一員として民族的矜持をもって生きていきたい」と締め括った。

講演後の質疑応答では会場とオンライン視聴者から多くの質問が寄せられ、活発な議論が行われた。

第2回の連続講座のテーマは朝鮮舞踊で、9月の開催を予定している。詳細は朝大朝鮮問題研究センターHP(http://kucks.korea-u.ac.jp/)で後日公表される。

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