ウリマルを考える④ウリマルと民族性(1)/朴宰秀

《朝鮮新報》2022.09.14

ウリマルを考える④ウリマルと民族性(1)/朴宰秀

日本で民族性というとあまりなじみのある言葉ではありません。民族性は国民性に通じる言葉です。

民族性とは、民族と共に歴史的に形成・発展してきた民族的特質のことで、ある民族が持つ固有な気質・民族意識・心理的特質・気風・精神などのことです。

一般に、アメリカ人は自由独立の精神に富み、ロシア人は万事にわたって大まかでのっそりしている。イギリス人は法や規則に忠実でフェアプレーを好み、中国人は祖先崇拝と面子(メンツ)を重んじる。そして日本人は、いつも集団になって行動し、皆の前で恥をかくことを恐れる。フランス人は芸術好きで、ドイツ人は論理一点張りだ。ラテン系の民族は陽気で情熱的だ、などと評されています。

しかし、このような評は、各民族の性格を印象的に語っているだけであり、かならずしもそこに科学的な根拠があるわけではありません。

民族性を科学的に説明するためには、それぞれの民族がどのような歴史と文化のなかで生まれ育ったのか、そしてまた、その歴史と文化の特徴を反映した形で、いかなる性格が共通に形成されているのか、といった点がはっきりつかめていなくてはなりません。

今回と次回は、言語と民族性について考えてみることにします。

朝鮮民族の民族性

朝鮮民族は、五千年の悠久な歴史のなかで伝統文化と生活風習などが反映された朝鮮の食文化や服飾文化、建築文化など様々な民族文化を創造し受け継いできました。

このような朝鮮民族固有の優れた民族性を積極的に生かすことは、私たちの運命と関わる重要な問題です。

高句麗の壁画を見たことがあると思います。この壁画は、当時の朝鮮民族の共通した民族性と生活風習を集約的に示す縮図と言えます。壁画には、民族の始祖である檀君に対する崇拝心が歴然と表現されています。また、勇敢ながらも楽天的な民族の気性、礼儀正しく仲睦まじい生活気風も生き生きと描かれています。特に、朝鮮民族固有のオンドル部屋、靴を脱いで部屋に入って座る風習などは非常に印象的です。

民族性は、歴史的に形成・発展する過程で、時代的色彩を帯びて補強されます。

民族性には、人民大衆の思想感情と志向、知恵と気質が反映されるだけではなく同時に、社会の進歩的な上層部の人たちの愛国的な思想感情と民族的な気質も反映されます。それは、その人たちも民族の一員だからです。

民族自主を目指した愛国的な名将や進歩的な学者・知識人たちの祖国愛・民族愛の思想感情と、民族のために捧げた知恵と才能、勇敢な気質などは人民大衆のそれと同じで、民族性の創造と発展に寄与します。

朝鮮民族が中世において民族の尊厳と自主性を守り勇敢に戦った事実は、民族性の核を成すわが民族の自主精神が非常に強く、それが朝鮮民族の誇らしい民族精神として確固たる地位を築いたことを物語っています。これにより、正義と道徳を重んじ、不義を嫌い、正義のためには命も惜しみなく捧げて戦う強い気性、賢明で勇敢な気質も民族性として発展しました。

燃えるような向学心、労働に対する勤勉性、創造力も朝鮮民族の誇らしい気質です。特に、隣人と仲良く助け合いながら築きあげた団結力、歌と踊りを楽しみながら苦難のなかでも未来を夢見て突き進む楽天的な性格と、美しいものを愛する高尚な感情も朝鮮民族の素晴らしい民族性として発展しました。

これらは世界の多くの民族と区別される朝鮮民族の特徴であり、私たちの誇りです。

言語と民族性の関係

今日、ウリマルを守り日常生活で使うことは、民族性を守り発展させるうえで重要な問題として提起されています。

金正日総書記は「言語は民族性を固守し発展させるうえで非常に重要な作用をする」(チュチェ文学論1992)と述べています。

民族語を守る問題は、民族の存亡と関連する死活的な問題の一つです。在日同胞にとってはなおさらのことです。それは、言語が民族としての存在を担保し、民族の自主的発展を成し遂げるうえで大きな役割を果たすからです。

何よりも、言語は民族性を固守・発展させるうえで重要な役割を果たします。

それは、言語の純粋性と固有性を守り、言語生活で固有語を生かすことが民族性を発揚させる過程となるからです。

また、言語は民族の歴史と共に発展する過程で、民族の伝統と文化、風習、人々の生活と思想感情をそのなかに取り込みます。ここには民族の知恵と才能も反映されます。これらの民族の魂と尊厳、伝統が言語を通して民族性として育まれるのです。

言語と民族性はこのように不可分の関係にあります。したがって、民族語の喪失は民族性の喪失を意味します。民族語を失うと民族の魂と尊厳、伝統である民族性を失い、ついには民族の滅亡をもたらしてしまいます。

金正恩総書記が総聯第25回全体大会参加者に送った書簡で、民族性を固守するためにウリマルを守り使用することを第一の課題にあげながら「ウリマルと文字を楽しく使うことが民族性固守の出発点」と述べた理由もまさにここにあります。

言語は、人々の重要な交際手段であり、民族の共通性と民族性を特徴づける基本表徴の一つです。人々は民族固有の言葉と文字を使いながら自分の民族が他の民族と区別される一つの独自の民族だという自覚を持つようになります。このような自覚が民族的尊厳を守り民族の自主権を行使しようと人々を団結させるのです。

ウリマルは、五千年の歴史を持つ朝鮮民族の優れた言語です。

檀君朝鮮が成立した時から朝鮮民族は言語と血筋を共にする民族として集団を成し、綿々と民族の文化と伝統を継承しながら独自の民族性を発展させてきました。

民族が創造・発展させてきた民族性と、その創造・発展に重要な役割を果たしてきた言語を切り離して考えることはできません。朝鮮人として自分の運命を切り開くうえでウリマルを使い守っていくことが重要になるゆえんです。

自分たちの言語の純潔性を守っていく民族だけが自主的に発展することができます。言語は、民族という大きな集団を一つに束ねていくうえで欠かせない必須手段です。

民族的自負心と矜持を持てずに他人の魂で生きようとする人間は、事大主義のとりことなり自分の力を信じられなくなってしまいます。そのような人は民族性を守ることも、自主的な民族として生きることもできなくなるでしょう。

朝鮮民族として自らの力で自己と民族の運命を開拓していくには、ウリマルと民族性を守ることが何よりも重要です。

【プロフィール】1970年、朝鮮大学校文学部卒業。同校で48年間勤務。文学部及び文学歴史学部学部長、朝鮮語研究所所長を務める。東京外国語大学、関東学院大学、京都造形芸術大学で非常勤講師を歴任。現ハングル能力検定協会相談役。朝鮮民主主義人民共和国教授、言語学博士。

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