ウリマルを考える⑩ 平壌文化語を考える/朴宰秀

ウリマルを考える⑩ 平壌文化語を考える/朴宰秀

《朝鮮新報》2023.04.03

2023年1月17日から18日に行われた最高人民会議第14期第8回会議で「平壌文化語保護法」が制定されました。これについて報告した最高人民会議常任委員会副委員長の姜潤石代議員は、「言語生活で主体を徹底的に確立する事業の重要性」について強調しながら、法案の内容を具体的に解説しました。

ただ、「平壌文化語保護法」についてまだ内容が公表されていないので詳細はよくわかりません。

今回は、「平壌文化語保護法」と関連する平壌文化語について考えてみることにします。

「文化語」という言葉

「文化語」という言葉は、金日成主席が1966年5月14日に「朝鮮語の民族的特性を正しく生かしていくことについて」を発表したときに初めて使用されました。

主席はこの教示の中で「文化語」という言葉を使う必要性について、「標準語」というとソウルの言葉を標準にすると誤解される恐れがあるので、平壌の言葉を基準にして発展させたウリマルを「標準語」ではなく「文化語」と言う方が良いと述べています。その後、「文化語」という言葉は、ソウルの言葉を基にした「標準語」と区別するために使われるようになりました。

それでは平壌文化語とはどんな言語でしょうか。

平壌文化語は、平壌を中心地とし、平壌の言葉を基準にして発展した朝鮮民主主義人民共和国の標準的言語です。

平壌文化語は、言語の民族的特性を固守し発展させていくために、何よりも語彙構成の中の外来的要素を整理し、民族固有の言語要素である固有語を積極的に生かしながら民族語のすべての要素を全面的に集大成した基準言語です。

語彙構成の基本は固有語である

平壌文化語の特徴は第一に、語彙構成が固有語を基本に体系化された最も純潔性の高い言語です。

ウリマルの語彙構成には、朝鮮民族が創造し発展させてきた固有語と、他国から入ってきた漢字語と外来語があります。

漢字語と外来語は、ウリマルの民族的特性を乱し、民族語の発展に大きな支障を与えてきたため、ウリマルにある不必要な漢字語と外来語を整理する必要がありました。そのため、朝鮮では解放後の言語浄化事業に続き、1960年代からは語彙整理事業を力強く展開しました。

朝鮮では語彙整理に関する理論に基づいて、同じ意味の単語で固有語と漢字語がある場合にはできるだけ固有語を使い、漢字語を使う場合もウリマルの中に深く根を下ろしたものを使って、あくまで固有語を基本にウリマルをより豊かに発展させる方向で語彙整理を行いました。

例:석교(石橋)→돌다리、상전(桑田)→뽕밭、가축(家畜)→집짐승など

例で見るように固有語と意味が同じ漢字語の場合には固有語を使い漢字語は使わないようにしました。

一方、「학교(学校)、방(房=部屋)、책(冊=本)」のようにウリマルに完全に根を下ろしたものはそのまま使うようにしました。

語彙整理事業の結果、ウリマルの語彙構成に入っていた不必要な漢字語が固有語に整理され、外来語も固有語やわかり易い漢字語に整理されました。

特に、日本語の整理によりウリマルにあった「구루마(車)、요꼬도리(横取り)、우와기(上着)」などが「소달구지、끼우기、양복저고리」などに替わり、「노크(ノック)、카브(カーブ)、원피스(ワンピース)」のような外来語も「손기척、굽인돌이、달린옷」などに替わりました。

平壌文化語は、このように不必要な漢字語や日本語、外来語を清算した朝鮮民族の言語に発展しました。

社会科学院言語学研究所で行った『朝鮮語大辞典』(1992年)の見出し語に対する分析資料によると、一般語彙構成の中で固有語は60%、漢字語は38.77%、外来語は1.23%になります。

語彙構成に方言を生かしている

第二に、平壌文化語は方言を文化語として規範化し、言語生活に生かしている大衆的な言語です。

朝鮮では、1964年と1966年に方言の中でよい言葉を探し出して使うための国の決定を採択し、その過程で調査した方言資料の中から約3100個を文化語として査定した後、『現代朝鮮語辞典』(1968年)、『朝鮮文化語辞典』(1973年)などに載せました。

一方、『朝鮮語辞典』(全6巻1960~1962年)で方言に処理された約2千の語彙も文化語に昇格させ、1968年の『現代朝鮮語辞典』に掲載しました。こうして「집난이(嫁にいった娘)、강냉이(とうもろこし)、오그랑죽(団子入りの粥)、뚜지다(掘り返す)、우불구불하다(くねくね曲がる)、허거프다(むなしい)」のような数多くの方言が文化語に査定され、ウリマルの語彙に含まれました。また、단꺼번에(一気に) 、답새기다(叩きのめす)、다박솔(子松林)、신새벽(明け方)などの非標準語になっていた単語も文化語の中に含まれました。

その後、『朝鮮文化語辞典』(1973年)、『現代朝鮮語辞典』(第2版。1981年)、『朝鮮語大辞典』(1992年)を編纂し、約4千の語彙を整理し文化語として受け入れています。

固有語を基に新語を作っている

第三に、平壌文化語は民族的趣向に満ちた新語を積極的に作り、民族語の語彙構成を絶えず豊かにしている言語です。

本来、朝鮮の固有語は高い造語能力を持っています。代表的に《하다(する)》は《朝鮮語頻度数辞典》(1993年)で見るように使用頻度が最も高いだけでなく名詞、副詞などの語根と結合して数多くの動詞、形容詞を派生させます。その上、漢字語までも朝鮮語化する独特な機能を果たします。

例:건설(建設)+하다 → 건설하다(建設する)/학습(学習)+하다 → 학습하다(学習する)/약(弱)+하다 → 약하다(弱い)、강(強)+하다 → 강하다(強い)など

接辞も同様です。

ウリマルには新語の造語に使われる接尾辞だけでも330余りあり、特に固有語の接尾辞である『-히,-껏,-스레』と『-답,-스럽』などは固有語だけでなく、漢字語の後ろにも付いて多くの新語を生み出しています。

例 :감히( 敢えて)、드문히(まれに)、명랑히(明朗に)、시들히(物足りない)、열성껏(熱心に)、행복스레(幸せに)、청년답다(青年らしい)、영광스럽다(栄えある)など

固有語はそれ自体が民族の固有の心理と情緒をそのまま反映しているので、それに基づいて作られた新語はどれも語感が良く情緒的です。

例:말린풀(干し草)、뜬소문(ウワサ)、얼룩소(マダラ牛)、웃음바다(笑いの海)、바삭과자(煎餅)、건늠길(横断歩道)、쪽잠(うたた寝)、줴기밥(おにぎり)、구름다리(陸橋)、셈세기(数え方)など

また、허전감(空虚感)や흡진기(クリーナー)のような漢字語の造語もあります。

民族教育の場で使用されている教科書は平壌文化語を基準にして編纂されています。

【プロフィール】1970年、朝鮮大学校文学部卒業。同校で48年間勤務。文学部及び文学歴史学部学部長、朝鮮語研究所所長を務める。東京外国語大学、関東学院大学、京都造形芸術大学で非常勤講師を歴任。現ハングル能力検定協会相談役。朝鮮民主主義人民共和国教授、言語学博士。

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