本場の空気、技術に触れる/祖国での通信受講制度

《朝鮮新報》 2017.08.31

【平壌発=黄理愛】日本各地にある朝鮮学校の高級部生徒たちが、民族芸術を本場・朝鮮で学ぶ通信受講制度。26回目となる今年は36人の受講生が参加した。受講を希望し審査に合格した生徒らは、高級部1年からの3年間、毎年夏に祖国を訪れ専攻分野を学ぶ。

舞踊組の練習風景

祖国で流した汗

愛知朝鮮中高級学校の権慶模教員を団長とする通信受講生代表団は7月20日から8月12日まで祖国に滞在し、舞踊組22人、音楽組(器楽・声楽)14人が金元均名称音楽綜合大学と尹伊桑音楽堂で練習の日々を送った。

授業は午前・午後で、舞踊組は学年別に分かれて基本動作、チャンダン、バレエ、表記などを学ぶ。音楽組は聴音や読譜、リズムといった基礎に加え、マンツーマンで専攻分野の技術指導を受ける。また、基礎や専攻分野以外にチャンダンやダンスにも挑戦する。民族音楽を奏でるための土台となる感覚や表現力を養うためだ。慣れない内容に汗を流しながら、必死に授業についていく。

初めて通信受講制度に参加した卞悠奈さん(京都中高・高1、舞踊組)は、「練習がきついんじゃないかと緊張したが、自分が好きなことに打ち込めるので楽しく、1日1日があっという間に過ぎていく」と充実した様子で話していた。

指導にあたるのは名だたる講師陣で、人民芸術家や功勲芸術家など国内の権威ある教員たちが特別に授業を受け持つ。

朝鮮の権威ある教員たちが指導する

チャンダンを学ぶ音楽組

舞踊組26期生(現高3)を3年間受け持ったアン・ミオクさん(金元均名称音楽綜合大学 平壌第2音楽学園 舞踊学部教員)もピバダ歌劇団の元舞踊手だ。教員として17年のキャリアを持ち朝鮮でも数多くの舞踊手を育ててきたが、在日同胞学生の熱意にはいつも驚かされるという。

「生徒たちは、祖国での学びの時間を1秒も無駄にしたくないと真剣に練習に取り組んでいる。毎日たくさんの課題を与えるが、無理してでもそれを消化してくるひたむきな姿に感動する」と高く評価していた。その言葉の通り、代表団が宿泊した平壌ホテルでは連日夜遅くまで自主練習に精を出す生徒たちの姿が見られた。

声楽を専攻する文龍大さん(大阪朝高・高2、音楽組)は、1年目の通信受講を終えて学校に帰った後、声楽部の指導教員から「人が変わったように成長した」と言われたと振り返る。練習に取り組む姿勢や技術ももちろんだが、文さん自身は内面の変化が大きかったと話す。

「実際に祖国を自分の目で見て、初めて歌詞の意味や重さを実感した。これまでは芸術を志す男子生徒が周りに少ないことで引け目もあったが、ほかの受講生と知り合って民族芸術の大切さや経験を共有する過程で、少ないからこそ自分がもっと役割を果たしていこうと思うようになった」。日本に帰ってもさらに精進していく意気込みだ。

感謝の気持ち作品に込め

民族楽器である高音チョッテを専攻する金詩温さん(大阪朝高・高3、音楽組)は中学1年生の時、平壌で行われる迎春公演(ソルマジ)に初出演。練習期間も含め、「『祖国の空気』というものを肌で感じ、見るものすべてが学びにつながった。本物の民族音楽のリズム、味わいを体感し、同じ楽器を吹いているのに日本では感じたことのない感覚が湧きあがってショックを受けた」と話す。一緒にソルマジに参加した高級部の先輩たちの多くが通信受講生だったこともあり、自分もより本格的に学びたいと受講を希望した。

卒業試験のようす

舞踊組3年生の韓潤玉さん(神戸朝高)は5歳の頃から朝鮮舞踊を始めた。将来は舞踊を教える教員になりたいという韓さん。「舞踊が同胞社会からなくなってしまったら寂しい。子どもたちに舞踊を教え、民族の文化を守っていくために、もっと上手になりたいと思って通信受講制度に参加した」。

さまざまな目標や憧れを胸に祖国で学び始めた3年生たち。8月9日には、金元均名称音楽綜合大学で卒業試験が行われ、10人が作品を発表した。

受講生たちは2年生の課程が終わる際に担当教員と相談して卒業作品を決め、次の夏まで日本で練習を重ねる。受講課程の最後に、これまでの集大成として作品を披露するのだ。

3年生らは教員や後輩の受講生たちが見守るなか、3年間の学びと思いを作品に乗せてのびのびと表現した。前述のアン・ミオクさんは「生徒たちの成長に涙が出た」と話しながら、「これからも地道に基礎を磨く努力を続け、観客を引き込む表現力を身につけてほしい」と期待を寄せていた。

卒業試験のようす

卒業試験のようす

通信受講生代表団を引率した柳理順さん(東京朝鮮第1初中級学校教員)は、「たくさんのことを教えてくれようとする祖国の人々の気持ちに全力で応えようと、受講生たち全員が奮闘したと思う。感謝の気持ちに溢れた卒業公演も感動した」とこの期間を振り返っていた。

祖国滞在最終日、代表団の宿泊先である平壌ホテルの食堂でささやかな公演も行われた。お世話になったホテルのスタッフや祖国の案内、引率教員たちのために受講生らが準備したものだ。舞台には重唱、舞踊、合唱など多彩な演目が並んだ。

チャンセナプ独奏で「ブランコに乗る乙女」を軽快に奏でた姜翔奎さん(東京中高・高2、音楽組)は、「感謝の気持ちを込めて演奏した。ただ楽器を演奏するだけでなく、音楽を通して民族心や祖国を伝えていきたいという気持ちが一層強くなった」と力を込めて話した。

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