それぞれの個性をのびやかに/第16回東京中高美術部展「未知しるべ」

それぞれの個性をのびやかに/第16回東京中高美術部展「未知しるべ」

《朝鮮新報》2022.01.28

1月17日から23日にかけて行われた第16回東京中高美術部展「未知しるべ」(東京芸術劇場アトリエイースト・アトリエウエスト)は、492人の観客らが訪れ盛況を収めた。最終日に行われたパフォーマンスおよびアーティストトークでは、生徒たちや出展者が作品紹介を行ったほか、多様な形で各々の個性が表現された。

「表現」追及する貴重な機会

高翠蓮さん

カメレオンを題材に「保護色」という作品を出展した高翠蓮さん(高2)はこの日、色の錯覚について発表し、観客たちの注目を集めた。

「あらゆる環境の変化にも適応して溶け込めることは社会活動において欠かせない力だ。では溶け込むというのは自分の存在すらも消してしまうことなのか。比だと私は思う。同系色になると同時に、自分自身の輝きを放つことを忘れないで欲しい」(『保護色』キャプションから)

インスピレーションを受けると、スマートフォンのメモ帳アプリにそれを記録し、作品制作のアイディアを書き留めているという高さん。制作の種となる「発見」は、いつも日常生活の中にある。「『保護色』について、人それぞれの考察があると思う。目立ったり、あるいは馴染んだり、あらゆる『適応』を強いられる社会だが、朝高生、在日朝鮮人は特にそのような状況に置かれているのでは」と話した。

一方、鄭大悟さん(高2)は、ベニヤ板6枚を箱のように組み立てて作った「脳³」を出展した。そして自らこの「脳³」の中に頭を埋め、作品制作への思いを述べた。鄭さんにとっては「未完成」だという作品だが、観客たちの中には、鄭さんと作品が一体となることによって、また新たな完成系のアートと言えるのではと興味を示す人もいた。

鄭大悟さん

今回の部展のタイトルになった「未知しるべ」というテーマについて「『しるべ』とは導くということ。未知ということは、何かわからないこと。自分が必要としている『しるべ』とは何なのか、その考えがまとまっていないから、自分の『しるべ』を作ろうと思い、脳をモチーフに作品を作るに至った」という。

「作っているうちにまた分からなくなった」と鄭さん。しかし、思考を重ね、考えを張り巡らした時間はかけがえのない機会になったという。「他の作品制作で手一杯な部分もあり、もっとできることがあったかもしれない」としながら、来年、より良いものを発表できればと意気込んでいた。

生徒たちに導かれて

中川寿さん

部展には、その趣旨に賛同する日本のアーティストらの作品もともに展示された。アーティストトークの時間には、日本人出展者が発言する機会も設けられた。

異文化に興味があるという中川寿さん(52)は、元々、東京中高美術部顧問の崔誠圭教員と親交があり、そこから同校美術部について知ることとなった。昨年、「頑張れよ」という気持ちではじめて、同部が部展開催のために実施したクラウドファンディングに賛同。そして部展も観覧した。その時、衝撃をうけたという。「生徒たちの表現力、パフォーマンスは圧巻だった。初めは応援する気持ちだったのだが、私が応援するも何も、かれかのじょたちはそれぞれにテーマを設定して、一生懸命表現し、ベストを尽くしていた。かたや俺は何をやっているのかと、人の心配よりも自分の心配をしろと突き付けられた気がした」と話す。衝撃への返答として「次の部展には自分の作品も出展したい」、その思いで作品制作に取り掛かり、今回の部展で作品「一週一葉」を出展した。

中川さんの作品は、デジタルを介したコミュニケーションが盛んに行われている現在、彼が週に一枚、知り合いの誰かに手書きの絵葉書を描いて出してみたものを一つの画にまとめたもの。「誰かに伝えたい何かは、葉書に載って、相手にどう伝わっただろうか?」――その問いとともに広がる「一週一葉」の前で、多くの観客たちが立ち止まり、作品に見入っていた。

「人に影響を与えるには大人も子どももない。生徒たちに導かれてここまで来た」(中川さん)

自由な個性を見守る

東京中高美術部は近年、高校生国際美術展や東京都中央展などへの出展、ワークショップへの参加などさまざまな対外活動に積極的に取り組み、活動の幅、表現の幅を広げてきた。

部展の開催にあたっては生徒たち自らクラウドファンディングを実施し開催資金を募ることによって、内外の注目を集めている。

崔誠圭教員は「個々人の力を存分に養って、自らの気づきを自由に表現できるよう、子どもたちの個性と表現を見守る役割に徹する。そしてその条件を、大人がいかに保障できるかという点をスタンスとし、指導に当たってきた」という。

観客たちからは「学生とは思えない表現力に驚いた。学校や先生たちの温かな環境、まなざしを感じる」「東京芸術劇場で、朝鮮学校の生徒たちの作品を見られるのはとてもありがたいことだ」など、さまざまな感想が寄せられた。

(李鳳仁)

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