ウリマルを考える⑤ ウリマルと民族性(2)/朴宰秀

《朝鮮新報》2022.10.12

ウリマルを考える⑤ ウリマルと民族性(2)/朴宰秀

一般的に、民族の一員として生まれ民族の中で育った人々は、その地で使用する言葉を覚え、思考や行動様式、倫理と風習、感情と情操を磨きながら成長します。この過程で育まれる民族意識と民族心理、民族感情、風習、礼節、生活様式などは個々人の個性として培われます。同時にそれらは民族性として共有されます。

民族性は、歴史的に形成発展した民族の精神生活と物質生活に現れる固有の民族的特性のことです。

今回は、この民族的特性の中からいくつかを取り上げて考えてみることにします。

朝鮮民族の言語と風習、衣食住

民族性は、言語と慣習、民俗と風習、礼節と儀式、生活様式などに集中的に現れます。この中でも言語は民族性とより深く関わっています。

民族とは、同じ血筋と言語を持つ人々の集団です。民族と民族性は表裏一体だと言えます。言語は民族と民族性を特徴づける重要な表徴です。

言葉は、人間関係はもとよりすべてのものと深く関わっています。朝鮮の食文化に関わるテンジャン、カンジャン、コチュジャン、マヌルやピビンパ、クッパ、プルコギなどの言葉もウリマルで伝えられます。チマ・チョゴリの服飾文化、建築、文学芸術、スポーツで使う言葉もウリマルで意思の疎通を図ります。毎年行われる在日朝鮮学生中央口演大会はもちろん、芸術競演大会や学生美術展も例外ではありません。近年、自分の描いた絵を学生自身がウリマルで解説していますが、とても理解が深まります。

次に風習です。風習とは、特定の地域社会や国に伝統的に伝わる生活上のならわしやしきたり・伝統行事や祭りなどのことです。風習は、人間関係で守るべき道徳と冠婚葬祭とに大別することができます。

人間関係で重要なことは、徳と情です。徳と情は、他人の痛みや苦しみ、困難や過ちなどを察して助けようとする道徳的品性で、一言でいうと人を愛し大切に思う心です。徳と情によって愛と義理で固く結ばれる人間関係が生まれます。徳と情は、家族や親族、同胞社会の互助精神の源泉です。

冠婚葬祭では、子どもの出生、婚礼、祭祀を人倫三大事とし、真心を込めて行い、その行事を非常に大事にします。

朝鮮民族は、お年寄りを尊敬し、隣人と仲良く付き合い助け合うこと、家族愛と親孝行を人間としての当然の在り方だと考えます。

民族性は、衣食住にもよく現れます。

朝鮮の食文化は、シンプルで淡白な日本の食文化に比べて、より多彩で奥深いと言えます。朝鮮民族のスッカラ多用の習慣は、スープを好む独特な食性に理由があります。朝鮮の食文化を一言でスープ文化というのも朝鮮人の食卓にはスープが欠かせないからです。このスープもクック類,タン類、チゲ類と三種類に分かれていてそれらの種類も豊富です。

チマ・チョゴリの文化は着物文化の日本と異なります。これが、歩き方の違いを生みました。日本の女性は、内股で身をかがめてせかせかと歩きますが、裾幅の広いチマを着る朝鮮の女性は、外股で胸を張ってしっかりした足取りで歩きます。

建築文化にも特徴があります。朝鮮の家屋の最大の特徴は、夏向きのマル(板の間)と冬向きの暖房のためのオンドル(床暖房)がバランスよく組み込まれた構造にあります。夏でも涼しく過ごせる板の間は朝鮮南部で発達した構造で、冬でも温かく過ごすことができるオンドルは、朝鮮北部で発達したものです。オンドルは時代が変わっても、形を変えて朝鮮の人々の生活に深く根付いています。

朝鮮民族の気質

気質とは、人間の心の働きのうち生まれつきの性質や性格と考えられるものです。気質は、その人の心の持ち方なので感情や情緒などもこれに含まれます。個人に性格があるように、民族にも心理的特徴があるのです。

人の気質は、育った環境や生い立ちと切り離して考えられないように、民族が持つ気質は民族の歴史と文化、伝統、気候風土の中で培われます。

朝鮮民族の気質を表した四字熟語に敬天愛人(天を敬い人を愛す・檀君を崇拝し、檀君の子孫であることを自覚し誇りを持ち、和合団結して己の道を歩まなければならないという思想。現代的に解釈すると、自主性と民族的尊厳が朝鮮民族の生命であるということ)、弘益人間(檀君朝鮮の建国理念。広く人間に利益をもたらす)、百折不屈(曲げることも折れることもなく、いかなる困難にも屈しない)、先公後私(私的なことは後回しにして、まずは公のことからしなければならない)、参与精神(何事にも関わっていこうとする心)などがあります。

逆境に威力を発揮する闘争心や青竹を割ったようなはっきりした性格、不義不正に対する非妥協性と猪突猛進、何事もとことんやり抜かんとする一貫性と自己主張の強さ、そして人間的な思いやりの深さや情の厚さといった朝鮮民族が誰でも持っている気性はこの気質と関わっています。

在日の民族性を考える

今は少数の在日1世は、日帝時代にさまざまな民族的抑圧と虐待を受けながらも民族性をしっかり守ってきました。しかし、在日同胞の世代交代が2世から3世、4世、5世へと進む中で、いま在日の民族性の稀薄化が深刻な問題となっています。

在日同胞が暮らしている日本社会は、欧米崇拝思想とアジア諸国に対する民族排他意識が根強く残る社会です。

在日朝鮮人は、日本の生活風土や精神文化と空気のように接しながら毎日を過ごしています。このような生活環境は、私たちに常日頃から自分は誰なのか、自分の存在価値は何なのかを考え、自分のあるべき姿を確認することを求めています。そうしなければ民族性は失われてしまいます。

いま在日同胞には、民族と民族性を今後も守っていくのか、それとも喪失を見過ごし日本への「帰化」、同化の道を選ぶのかという岐路に立たされています。

今日、民族と民族性を守るうえで重要なことは、朝鮮民族としての誇りをしっかり持つことです。なぜなら朝鮮民族としての誇りが自分を自覚し取り戻す原動力になるからです。

朝鮮民族の素晴らしさを知ることは民族の誇りにつながります。ウリマルや歴史、文化の学習が必要であるゆえんです。

在日朝鮮人が民族性を守っていくには、民族教育を強化発展させることが何よりも重要だと考えます。なぜなら民族教育の強化発展が朝鮮人としての民族意識と民族性の継承につながるからです。

同時に、民族教育を認めず同化政策を強要しながら民族性の継承を妨げるすべての要因を取り除くことです。高校無償化制度の適用を求める闘いもその一環です。

民族性回復のための全組織的、全同胞的運動を繰り広げることが私たちの命運と深く関わっています。

【プロフィール】1970年、朝鮮大学校文学部卒業。同校で48年間勤務。文学部及び文学歴史学部学部長、朝鮮語研究所所長を務める。東京外国語大学、関東学院大学、京都造形芸術大学で非常勤講師を歴任。現ハングル能力検定協会相談役。朝鮮民主主義人民共和国教授、言語学博士。

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