在日朝鮮人美術史1945-1962/白凛著

《朝鮮新報》2021.10.01

〈本の紹介〉在日朝鮮人美術史1945-1962/白凛著

美術家たちの表現活動の記録

明石書店(03-5818-1171

4600円+税

著者の白凛さんは、朝鮮大学校教育学部美術科、東京藝術大学美術学部芸術学科を卒業後、東京大学大学院で研究を深め昨年3月に博士号を取得。本書はその博士論文をもとに執筆されたものだ。タイトルの通り、解放後から1962年までの在日朝鮮人美術史を記録したものであるが、プロローグに本書の内容や目的などが凝縮されている。

「在日朝鮮人美術家個々人の作家論や作品論ではなく、在日朝鮮人という集合体の一員であるという自覚を持ちながら作品を制作し活動していた美術家たちの活動の解明に重点を置く。激変する歴史の中に生き、時代の息吹を作品に込めた美術家たちを知るためには、美術家一人ひとりの個性だけでなく、共通項や傾向、さらにそれらが現れた要因を探らねばならないと筆者は考えている」

これまでのこの分野の研究に対する不満を著者はこう指摘する。「資料的欠損を克服しようとする試みが残念ながら充分でない」「個別に断片的に言及するにとどまっている」。そのうえで本書は、「在日朝鮮人美術家たちがどのようにグループを作り、活動したのかを解明し、これまで個別に語られてきた在日朝鮮人美術家たちの相互の接点を探ってきた。すなわちこれまで点としてしか存在しないと思われてきた美術家を線でつないできた」とする。

序章から第6章から7つの章で構成される。在日朝鮮美術会の結成(53年10月)や「在日朝鮮美術家画集」(62年1月)、「統一」を目指した連立展の開催、日本アンデパンダン展への出品と日本人美術家との交流…などこの時期の大きな出来事を克明に掘り起こす。その作業は地道で貴重だ。大きな特長は、全哲、金昌徳、金昌洛、白玲、成利植氏など時代を彩った美術家の姿を浮かび上がらせていることだ。

「あとがき」には筆者が朝大美術科時代の同級生や先生から始り、研究の過程で知り合い協力を得た人々の名前をあげて謝意を伝えている。そして最後に家族に感謝。これほど多くの人たちに謝意を伝える「あとがき」を初めて読んだが、筆者の人柄がよく表れている。在日朝鮮人史を記録するうえでたいへん意義のある研究だ。(徹)

Follow me!

アーティストの最新記事8件