ウリマルを考える②ウリマルと在日朝鮮人の民族問題/朴宰秀

《朝鮮新報》2022.07.13

ウリマルを考える②ウリマルと在日朝鮮人の民族問題/朴宰秀

前回、民族の表徴は、血筋と言語、地域と文化生活の共通性で、これらを民族の外的要因と呼ぶことにしました。この中で血統と言語は民族を特徴づける最も重要な表徴です。しかし、在日朝鮮人の現況を見ると、この民族の外的要因が稀薄な人が数多く存在するため、この問題を解決しなければ今日の在日朝鮮人の民族問題を解決することはできません。

当事者の民族意識

現在の在日朝鮮人の血統を見ると、朝鮮人を両親に持つ人もいますが、片親が朝鮮人でない人もいます。父母だけでなく祖父母の片方が朝鮮人でない人もいます。今、国際結婚が80%を超えて、朝鮮民族の血統が薄れているのです。

ウリマルも深刻な状況にあります。ウリマルのできる人より少ししかできない人、全くできない人が多数を占めています。

また、様々な理由で「帰化」した人たちもいます。「帰化」した人たちにも朝鮮民族の血が流れています。この人たちを、在日同胞社会から切り離すのは、私たちを取り巻く現実とかけ離れたものになります。

私たちの家族や親戚の中に国際結婚やウリマルの喪失、「帰化」という問題を抱えていない在日同胞が果たしてどれだけいるでしょうか。

この状況をそのままにしておくと血統とウリマルの共通性はなくなり、民族性を固守することができなくなります。これは在日朝鮮人社会の消滅を意味します。

在日朝鮮人の民族問題を解決するには、失いつつあるウリ民族を取り戻すことです。これが在日朝鮮人問題の原点であり出発点です。民族の存在があってこそ愛国も民族愛もあります。

ここで確認しておきたいことがあります。国籍は民族と関係がありません。日本国籍だから日本人で、朝鮮籍だから朝鮮人ではないのです。民族と国籍とは常に同じではありません。これを同一に考える人がいます。

国籍は、ある人がある国の国民であるという資格で、民族は、血統、言語、文化生活を共有し、同族意識によって固く結ばれた人々としてどの集団に属するかという問題です。

コリア系アメリカ人といえば、民族としては朝鮮人ですが、米国の市民権を持っている者というぐらいの意味です。「日系ブラジル人」「ユダヤ系ロシア人」なども同じです。従って「朝鮮人」というときは、朝鮮民族のみを指すとは必ずしも言い切れないのです。民族的には日本人だが、朝鮮の国籍を持った「日系朝鮮人」もあり得るわけです。事実、朝鮮民主主義人民共和国の国籍法第六条は、朝鮮民族でない者も共和国の国籍を取得しうることを定めています。

私の教え子に祖父が朝鮮人、祖母が日本人、その間に生まれた母親と日本人の父親を持つ卒業生がいます。彼は、長男だけでも朝鮮人として育てたいという祖父の考えで、初級学校から大学まで民族教育を受けました。しかし、彼の弟たちは父母の考えで日本の学校に通いました。現在、長男は朝鮮人として暮らしていますが、弟たちは日本人として暮らしています。兄弟でありながら違った民族として生きているのです。

どうしてこのような違いが生じたのでしょうか。違いは祖父の考えと、父母の考え、受けた教育だけです。

このことは民族のあり方が、その当事者たちの意識と深く関わっていることを示しています。この意識を民族の内的要因と呼ぶことにします。

在日同胞がどの民族に属するのかを決めるうえで、民族の外的要因と共に、当事者たちの内的要因・指向性が重要だということです。

民族の血統、言語などの外的要因を持っている人でも、その指向性によっては民族から遊離することもあれば、外的要因が薄れていても、指向性によって民族への回帰が十分可能なのです。血統とウリマル、民族性を取り戻そうとする指向性・帰属意識により、再びウリ民族に回帰することができるということです。

マイノリティーに対する偏見と差別、日本の同化政策と圧倒的な日本語の影響にも屈せず、民族的自主性を保とうとする強い意志が、朝鮮民族としての存在を守っているのです。この民族回帰的指向・帰属意識があれば、これからも世代を継いで在日朝鮮人社会を守っていくことができるでしょう。

民族を指向する強い意識に裏打ちされた具体的行為(民族結婚、ウリマルの獲得など)は、私たちが朝鮮民族の一員として生きていく上での必要最小限の条件です。

源は民族の矜持

重要なことは民族回帰的指向・帰属意識を育むことです。では、どうすれば帰属意識を育むことができるでしょうか。

帰属意識を生む源は民族の矜持と自負心です。そのためには、朝鮮民族の素晴らしさを知ることが重要です。

民族教育や成人学校、青年学校などで、ウリマルと朝鮮の歴史、文化を学び民族性を育んだ人々は、朝鮮人としての矜持と自負心、自尊心を心の糧にして、偏見と差別が渦巻く日本社会で朝鮮人として堂々と生きています。

それとは逆に、「朝鮮人であることが恥ずかしい。日本人として生きたい。一生、日本で住むから朝鮮語はいらない」などの考えにより、自ら朝鮮人的なものを捨て民族の外的要因を変えようとするところから、朝鮮民族からの遊離が始まるのです。この意識の問題を解決することが在日朝鮮人の民族問題を解決する鍵になります。

金正恩総書記は、総聯第25回全体大会に寄せた書簡で「総聯は、同胞の間に血縁的なつながりを結ぶ手段であるウリマルと文字を好んで使うことが民族性固守の出発点、愛国の第一歩になる」と述べました。

現在の日本にあって血統の継承と朝鮮語の獲得は、民族性を固守し民族的主体性と尊厳を育む上で重要な役割を果たします。

国際結婚で稀薄になった朝鮮民族の血統も、日本の民族抹殺政策と同化政策により奪われた朝鮮語と民族性も、在日朝鮮人の帰属意識で取り戻すことができます。

民族性固守を全組織的、全同胞的な運動として力強く繰り広げ、在日同胞が世代を継いで異国の地に住んでも絶対に同化しないようにすることが私たちの崇高な使命だと思います。

【プロフィール】1970年、朝鮮大学校文学部卒業。同校で48年間勤務。文学部及び文学歴史学部学部長、朝鮮語研究所所長を務める。東京外国語大学、関東学院大学、京都造形芸術大学で非常勤講師を歴任。現ハングル能力検定協会相談役。朝鮮民主主義人民共和国教授、言語学博士。

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